東京高等裁判所 昭和39年(ツ)193号 判決
家屋賃貸借契約において、賃借人が一回でも賃料の支払を怠つたときは、賃貸人が、民法第五四一条所定の催告を要しないで、契約解除権を取得する旨定めた特約が、一般的にいつて、賃借人に不利益をもたらす約定であることは否定することができない。しかし、賃借人の資性言動等に徴し、将来賃借人としての義務を誠実に履行することの期待されないような場合に、賃貸人としてこのような厳格な特約によつて正常かつ円滑な契約関係を保障したいと念願するのは当然であり、賃借人においてこれを承諾した以上、右特約が賃借人に不利益であるとの一事によつて、これを当然無効であると解するのは失当である。ただ、前記のような事情がないのにかかわらず、たとえば賃借人の経済的に弱い地位に乗じて右のような特約が結ばれたというように、特約の効力を認めることが不衡平不合理であつて、賃貸借契約の当事者間の信義に反する特別の事由があるときは該特約は無効であるとしなければならない。そして、右特約による解除の効力が争われる事案においては、賃借人の側において、右特別の事由があることについて主張立証する責任があると解するのが相当である。しかるに、原判決確定の事実関係だけではかかる事由があるものとは認め難く、上告人において他に右事由があることについて主張した形跡もないのである。したがつて、本件特約が有効であるとの前提に立つて本件賃貸借契約解除の効力を肯認した原判決の判断は正当であつて民法第五四一条の解釈適用を誤つた違法はない。
(岡部 川添 蕪山)